神経セロイドリポフスチン症を知ろう

神経セロイドリポフスチン症って、どんな病気?01) 02)

神経セロイドリポフスチン症は、非常にまれな、子どもの重い神経変性疾患*1です。
生まれつき遺伝子に異常があって脳や脊髄にある神経細胞(ニューロン)が侵され、その働きが低下していく病気です。
神経セロイドリポフスチン症は、細胞内のライソゾームという器官が正常に働かないために起こります。
そのため、ライソゾーム病(日本では難病に指定)の1つに分類されています。別名、バッテン病とも言います。
*1.神経変性疾患:例えば、認知や運動などに関わる領域の神経細胞が侵されて、細胞を中心に組織が変化しその働きが低下していく病気。 アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)などがあります。

神経セロイドリポフスチン症って、どんな病気?

神経セロイドリポフスチン症の原因は?01)

私たちの体は細胞で構成されています。
細胞内にはライソゾームという器官があり、代謝でできた老廃物を処理しています。
神経セロイドリポフスチン症では、遺伝子に異常があるため、代謝物質を分解する酵素、代謝産物を運ぶタンパク、イオンを通過させて細胞の働きを守る経路などが、正しく働くことができません。そのため、本来なら処理されていくはずの不要物(リポフスチン)が細胞の中にたまって障害をもたらします。

ライソゾーム

私たちの体には数十兆個もの細胞があります。
細胞は生命体を構成する基本単位で、生きていくために欠かせません。
細胞は核と細胞質、そしてそれらを囲む細胞膜でできています。細胞質の中にはたくさんの小さな器官(細胞小器官)があり、それぞれが重要な役割を担っています。細胞小器官の1つがライソゾームです。
ライソゾームの役割は、細胞内に侵入してきた異物や代謝産物など体に不要な老廃物を酵素で分解・処理すること。いわば有能な〝ゴミ処理工場〟03)と言えます。

ライソゾーム

細胞の構造

神経細胞(ニューロン)

私たちの生命活動は脳によってコントロールされています。
脳は情報を集め、処理し、指令を出します。
脳の主役は神経細胞です。脳には千数百億個もの神経細胞があり、情報伝達のために働いています。神経細胞を構成するのは細胞体、樹状突起、軸索です。
情報は樹状突起でキャッチされ、電気信号に変えられ、軸索を経て、神経伝達物質となって他の神経細胞へと伝えられていきます。

神経細胞(ニューロン)の構造

神経細胞(ニューロン)の構造

神経セロイドリポフスチン症には、
14タイプがある01) 04~08)

神経セロイドリポフスチン症は、異常を示す遺伝子によって14のタイプに分類されています。
発症した年齢と経過から乳児型、遅発乳児型、若年型、成人型の4つの病型に分けられています。

神経セロイドリポフスチン症の発生率は?01) 04)

ヨーロッパでは出生10万人に対して0.98〜7人と報告されています。
日本では極めてまれで、2001年の全国調査では27例が報告されています。

神経セロイドリポフスチン症の発生率は日本でも極めてまれ

神経セロイドリポフスチン症は遺伝するの?

神経セロイドリポフスチン症は遺伝性の病気ですが、親が原因となる遺伝子を持つ保因者だからといって、病気の子が生まれるわけではありません。
成人型の一部を除いて、両親が2人とも症状のない保因者なら、病気の子が生まれる可能性は4人に1人です。

神経セロイドリポフスチン症は遺伝するの?

神経セロイドリポフスチン症では、どんな症状が現れるの?

知能の遅れ、難治性てんかん、視力障害などが進んでいきます。01)
病型によって、また同じ病型でも、症状や重症度はひとりひとり異なります。

セロイドリポフスチン症2型(CLN2)

神経セロイドリポフスチン症の中でも多いのが、セロイドリポフスチン症2型です。
ヨーロッパでは神経セロイドリポフスチン症の4人に1人がセロイドリポフスチン症2型であったと報告09)(2011)されています。
CLN2遺伝子に異常があり、ライソゾーム内でタンパクを分解するトリペプチジルペプチダーゼ1(TPP1)という酵素の働きが不十分なために起こります。

セロイドリポフスチン症2型(CLN2)

最初は“けいれん発作”から・・・

  • 多くは遅発乳児型で、2〜4歳で発症します。01)
  • 多くの場合、けいれん発作が病院受診のきっかけになります。ふりかえってみると、言葉の遅れに気づくことがあります。また運動失調などが現れます。
  • 年齢とともに悪化し、数年の間に(6歳に達する頃には)コミュニケーション不能(認知機能の低下)、寝たきり、失明におちいります。07) 08) 10〜13)
  • 遅発乳児型の平均寿命は5〜12年とされています。01)
セロイドリポフスチン症2型の症状のいろいろ

まずは検査を01)

神経セロイドリポフスチン症の中でもセロイドリポフスチン症2型は急速に悪化してしまいます。
また、他の病気と重なる症状も少なくありません。
気になる症状があったら、早めに医療機関を受診して検査を受けることが大切です。

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まずは検査を

どんな治療を受けるの?

症状を抑える方法と酵素補充療法があります。
また、医療費助成制度*2により、経済的負担を軽くして治療を受けることができ、生活設計を立てる上でも役立ちます。
*2. 医療費助成制度:「指定難病」と診断され、「重症度分類等」に照らして病状の程度が一定程度以上の場合、医療費が軽減される制度。

症状を抑える“対症療法”01) 04)

薬や処置で症状をコントロールできます。

  • けいれん、てんかん発作:
    神経細胞の興奮を抑える薬(抗てんかん薬)が使われます。
  • 手足の麻痺:
    リハビリテーションも役立ちます。
  • 食べものを飲み込めない:
    筋肉の緊張を和らげる薬を使います。チューブを介して栄養を補うこともあります(経管栄養)。
  • 寝たきり:
    人工呼吸器や胃ろう*3などが使われます。
    *3.胃ろう:お腹に穴を開けてチューブを通し、そこから栄養を摂る方法。
どんな治療を受けるの?

酵素補充療法01)

足りない酵素を薬で補って、ライソゾーム内にたまった老廃物を分解する方法です。
セロイドリポフスチン症2型には、脳室内へのTPP1酵素補充療法があります。

日常生活で気をつけること15)

  • 十分な睡眠をとり、
    疲れをためないようにします。
  • 過度の運動は避けます。
  • 精神的ストレスをためないようにします。
  • 薬ののみ忘れがないよう注意します。
  • 過度の光刺激を受けないようにします。
日常生活で気をつけること

参考資料

  1. 衛藤 薫:医学の歩み 264(9):851-856, 2018
  2. 衛藤義勝:別冊・医学の歩み, ライソゾーム病のすべて:5-8, 2019
  3. 酒井規夫:別冊・医学のあゆみ,ライソゾーム病のすべて:9-12,2019
  4. 小児慢性特定疾病情報センター website:神経セロイドリポフスチン症 
    https://www.shouman.jp/disease/details/08_06_101/
  5. Batten Disease Support and Research Association. Accessed Sep 2018 
    http://bdsra.org/what-is-battendisease/
  6. OMIM® Accessed Oct 2018 
    https://www.omim.org/entry/615362
  7. Schulz A et al. : Biochem Biophys Acta. 2013, 1832 :1801-1806
  8. Mole SE, Williams RE, Goebel HH : Neurogenetics. 2005 ; 6:107-126
  9. Mole SE et al.: The Neuronal Ceroid Lipofuscinoses (Batten Disease). 2nd ed. 2011:361-365
  10. Mole SE, Williams RE. : Neuronal ceroid-lipofuscinoses. 2001 Oct 10 [Updated 2013 Aug 1]
  11. Chang M et al. CLN2. : The neuronal ceroid lipofuscinoses(Batten Disease). 2nd ed. Oxford, United Kingdom: Oxford University Press; 2011: 80-109
  12. Perez-Poyato MS et al. : J Child Neurol. 2013, 28 :470-478
  13. Steinfeld R et al. : Am J Med Genet. 2002, 112 : 347-354
  14. 難病情報センターwebsite:進行性ミオクローヌスてんかん(指定難病309)
    https://www.nanbyou.or.jp/entry/5425
  15. 日本神経学会website:脳神経内科の主な病氣
    https://www.neurology-jp.org/public/disease/tenkan_detail.html

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セロイドリポフスチン症2型:
小児慢性特定疾患もしくは指定難病